
九州食肉学問所 学長です。前回は3大栄養素のうち「たんぱく質」を取り上げました。今回は「脂質」です。
2026年の訂正について
この記事は2014年当時の文章をなるべく残し、2026年時点の知見と合わない部分を訂正しています。取り消し線が当時の記述、色のついた部分と「2026年の訂正」の枠が訂正した内容です。
脂身は体に悪いの?
「脂身が食べられなくなった」「霜降りはもうちょっとでいい」という方が増えています。たしかに、和牛の霜降りは私もきついです。
小学校の給食でも「脂身はカットで!」と、子どもが脂身を嫌っている様子が伝わってきます。これは、栄養士さんが献立を考えるときに「カロリー」を考えるので、1gで9kcalもある脂肪は、どうしても嫌われるようです。
ただ、ひとことで脂肪といっても、お肉の脂、バター、魚の脂、揚げ物に使う油など、いろいろなものがあります。バターやお肉の脂は常温で固体ですが、サラダ油やオリーブ油などの植物油は常温で液体です。これはなぜでしょう? バターやラード(豚脂)は体に悪いのでしょうか? 植物油からつくられるマーガリンやショートニングは、なぜ常温で固体(やわらかいけれど)なのでしょう。健康的なのでしょうか?
しっかり理解して、健康な生活を送りたいですね。
脂質とは
脂質は、3大栄養素の中でも1gあたり9kcal(たんぱく質と炭水化物は4kcal)のエネルギーを生み出す、もっとも効率のよいエネルギー源です。脂質の90%以上はトリアシルグリセロール(中性脂肪)です。

中性脂肪は、食べるとすい臓から出るリパーゼによって、脂肪酸とモノアシルグリセロールに分解されます。この脂肪酸は、種類によって体の中での働きがちがいます。今回は、この脂肪酸をじっくり見ていきます。最初の質問の答えも、脂肪酸を知るとわかります。
飽和脂肪酸

飽和脂肪酸は常温で固体で、とても安定しています。ラードやバターなどの動物性脂肪に多く、ヤシ油やパーム油にも含まれています。牛肉や羊肉に多いステアリン酸のように、熱や酸化にとても強い脂肪酸です。
すぐに酸化したりしません。中性脂肪やコレステロールの合成を促します。不足すると血管がもろくなり、多すぎると動脈硬化の原因になります。

脂肪酸は、炭素がつながり、その炭素に水素がくっついてできています。あとで出てくる不飽和脂肪酸とくらべると一目瞭然ですが、飽和脂肪酸は炭素に水素がびっちり結合しています。そのため、とても安定しています。
なお、完全に飽和脂肪酸だけ、不飽和脂肪酸だけでできている脂肪はありません。どの脂肪も、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の組み合わせでできています。不飽和脂肪酸は、一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸に分けられます。
一価不飽和脂肪酸

一価不飽和脂肪酸は、飽和脂肪酸よりもやわらかい脂肪酸です。オレイン酸が有名ですね。豚肉や牛肉に多く含まれ、ヒマワリ油、ベニバナ油、オリーブ油、なたね油にも多く含まれます。

やわらかい理由は、図のように水素分子が欠けているため→ 炭素どうしの二重結合が1か所あり、そこで分子が折れ曲がるためですが、おおむね安定していて、酸化するのも早くはありません。同じ牛肉でも、オレイン酸が多くなると融点が低くなり、やわらかい口当たりの脂になります。
多価不飽和脂肪酸

表の中の「特徴」の欄(がん細胞の増殖を抑える、血糖値を下げる など)は2014年当時の情報で、人での効果がはっきりしていないものも含まれます。食品例の参考としてご覧ください。
多価不飽和脂肪酸は常温で液体です。魚の脂に含まれるDHAやEPAが有名ですね。植物油のリノール酸、葉物野菜の→ えごま油・あまに油などのα-リノレン酸、卵やレバーに含まれるアラキドン酸も有名です。

多価不飽和脂肪酸を多く含む脂質が常温で液体なのは、水素分子が2組以上欠けていて→ 炭素どうしの二重結合が2か所以上あって、飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸よりもやわらかいためです。そして、とても酸化しやすい性質があります。酸化した脂肪は病気を招いたり、人の細胞のDNAを傷つけたりします。免疫の働きも低下させます。
酸化した油は体によくないとされています。古くなった油は使わないようにしましょう。
動物性脂肪は体に悪い?
動物性脂肪は、肥満や心臓の病気の原因とされてきました。とりすぎはもちろん問題ですが、肥満や心臓の病気の原因は「炭水化物(糖質)」のとりすぎによるものです。食品からとった脂肪のうち、吸収されない部分は体の外に出ていきます。
糖質のとりすぎも、肥満の大きな原因のひとつです。脂だけを悪者にせず、食事全体のバランスで考えましょう。
脂肪酸の望ましいとり方の割合は、飽和脂肪酸:一価不飽和脂肪酸:多価不飽和脂肪酸=3:4:3といわれています。多価不飽和脂肪酸である魚のDHAやEPAは体の中で合成されるので、お肉と野菜をしっかり食べれば、バランスがよくなります。
「3:4:3」は昔の国の目安で、いまの基準(日本人の食事摂取基準)では、脂質は総エネルギーの20〜30%、飽和脂肪酸は7%以下が目標とされています。また、DHAやEPAは体の中ではα-リノレン酸からわずかしかつくられないため、魚からとるのがおすすめです。
トランス脂肪酸
近年注目されているのが、トランス脂肪酸です。植物油に水素添加して大量につくられるサラダ油、マーガリン、ショートニングに多く含まれています。
トランス脂肪酸は、多価不飽和脂肪酸に水素添加(またはエライジン化)という化学反応をすることで生まれてしまいます。動物性脂肪のラードでも、水素添加によって大量生産されるものには、トランス脂肪酸が多く含まれます。
動物性脂肪が問題視されてきた一方で、工場で大量に精製される、安くて手に入りやすいサラダ油などの植物油、マーガリン、ショートニングは、トランス脂肪酸を大量に含んでいます。これらの油は、ファストフードや揚げ物などの加工食品、乳製品だと思っていた安いソフトクリームやアイスクリームにも多く使われています。アメリカでは、トランス脂肪酸を規制する動きも出ています。とりすぎは深刻な健康被害をもたらします。
トランス脂肪酸が多いのは、植物油などに部分的に水素を加えた「部分水素添加油脂」で、マーガリンやショートニングの一部などに使われてきました。ふつうのサラダ油やラードは、水素添加でつくるものではありません。アメリカでは2018年から部分水素添加油脂の使用が原則禁止されました。日本人のトランス脂肪酸の摂取量は、WHOの目標(総エネルギーの1%未満)を下回っていて、メーカーも自主的に減らしています。
天然に存在するトランス脂肪酸は共役リノール酸(CLA:conjugated linoleic acid)といい、バターや反すう動物(牛や羊など)の脂に含まれています。これは、がんを抑え、体重の増加や心臓の病気を防ぎます。
天然のトランス脂肪酸は、CLAだけではありません。CLAには健康への働きが研究されていますが、人での効果はまだはっきりしていません。
必須脂肪酸
人の体の中でつくれない必須アミノ酸(たんぱく質編)があるように、脂肪酸にも「必須脂肪酸」があります。(ちなみに、必須炭水化物、必須糖質というものはありません。)
代表的なのは、ω-6(オメガ6)脂肪酸のリノール酸と、ω-3(オメガ3)脂肪酸のα-リノレン酸で、どちらも多価不飽和脂肪酸です。ω-のあとの数字は炭素の二重結合の場所で、これで系統が分かれます。ω-6脂肪酸とω-3脂肪酸の理想的な割合は2:1だそうです。
いまの国の基準に、ω-6とω-3の比率の目安はありません。ただ、ω-3脂肪酸は不足しがちなので、意識してとりたい脂肪酸です。
牧草で育った動物の肉や、その乳でできたバターにはω-3脂肪酸が多く含まれますが、穀物で育てたものはω-6脂肪酸が多くなるようです。
ケトン体について

脂質も、糖質(炭水化物)やたんぱく質と同じように「アセチルCoA」となり、「TCA回路」に入ってエネルギー(ATP)として使われます。
食事からとった中性脂肪や、体にたくわえられた中性脂肪は、グリセロールと脂肪酸に分解されます。脂肪酸はβ酸化を経てたくさんのアセチルCoAになり、このうちTCA回路に入れなかったアセチルCoAが「ケトン体」となって、エネルギー源になります。
グリセロールは「糖新生」という過程を経てエネルギーになります。糖質を控えた食事をすると、糖新生が活発になります。そのとき、脂肪酸をエネルギーに変えるのに必要なオキサロ酢酸が足りなくなり、ケトン体が多くつくられます。
コレステロールについて
脂肪から連想するものに、コレステロールがあります。実際は、コレステロールは脂質ではなく、動物性たんぱくの中にあるステロールやアルコールの一種です。→ コレステロールは脂質の一種(ステロール)です。私たちの細胞膜や脳はコレステロールでできています。→ コレステロールが大切な材料のひとつです。主要な臓器は、活動するのにも、修復するのにもコレステロールを必要とします。コレステロールの体の中での働きには、次のようなものがあります。
- 人の体をつくる
60兆→ 約37兆(最近の推計)の細胞の、細胞膜の成分 - 副腎皮質ホルモンや性ホルモンの材料
- 胆汁酸の材料として、脂肪や脂溶性ビタミンの消化・吸収を助ける
- ビタミンDになり、カルシウムの吸収をよくする
コレステロールの英語名 Cholesterol の「chole-」は、ギリシャ語で「胆汁」という意味です。コレステロールはほとんどが肝臓で合成され、健康のうえでも大切なものです。最近の研究では、コレステロール値が低いと病気にかかりやすく、うつになり、感染症のリスクも高まることがわかっています。
コレステロールは、低すぎることにも問題があるという研究もあります。
食事からとるコレステロールの目標量は、いまの国の基準では設けられていません。ただし、脂質異常症の方は1日200mg未満が望ましいとされています。
HDLとLDL
みなさんご存じの言葉に、HDLとLDLがあると思います。コレステロールは血液に溶けず、自分で動くことができません。体のすみずみまでコレステロールを運ぶのが、HDLとLDLです。HDLやLDLはコレステロールそのものではなく、リポたんぱく質がつくる複合体です(HDLは High Density Lipoprotein の略)。
HDL(善玉)は、古くなった細胞に含まれるコレステロールを回収して、肝臓にもどす働きがあります。LDL(悪玉)は、肝臓で合成したコレステロールを、必要な細胞に届けます。HDLとLDLによって、コレステロールは体のすみずみまで行きわたり、炎症があればその細胞を修復しますます。このHDLとLDLのバランスが崩れると、脂質異常症や動脈硬化の原因になります。
最後に
今回は、3大栄養素のうち脂質についてでした。脂肪については誤解が生まれやすいため、ちょっとボリュームが増えてしまいました。
多価不飽和脂肪酸が中心の植物油は、存在に気づきにくいこともあって、毎日とってしまいがちです。ですが、トランス脂肪酸の多い水素添加された油は、体にいいものではありません。
牛や豚の脂は、食感も見た目も「脂!」という感じなので、どうしても肥満を連想してしまいます。太ってお医者さんにかかると、「お肉を減らしなさい」といまだにいわれてしまいます。これは完全に間違いです。人が太ったり不健康になったりするのは、「糖質(炭水化物)」が原因です。→ 脂だけを悪者にせず、糖質のとりすぎにも気をつけて、食事全体のバランスで考えましょう。また、体にたくわえられた脂肪は、糖質が体に入ってこないと優先的に使われてエネルギーになり、一部はケトン体となって、これもエネルギーになります。
次回は、糖質について勉強していきます。
この記事は、九州肉屋.jpの連載「学問所通信」第11回(2014年11月)を、2026年に加筆・更新したものです。
参考:脂質による健康への影響(農林水産省)/米国のトランス脂肪酸対策(農林水産省)/日本人のトランス脂肪酸摂取量(農林水産省)
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